質問
昨年、左鎖骨上にできた「神経鞘腫」の摘出手術を受けました(2cm程度切除)。しかし、患部に腕神経叢があって神経を損傷するおそれがあったため、一部取り残しがあります。現在、月に1回受診して薬をいただいていますが、天候の加減や体調により、手術部位が痛んだり、左手やま肩、胸、腕に虫が這うような感じがすることがあります。
また、疲れると、左手の親指と人さし指に力が入らなくなります。担当医に相談したところ、「ブロック注射による治療もあるが、効果は一時的」といわれました。気長に付き合うしかないのでしょうか。再発した場合、再手術はできるのでしょうか。
答え
「神経鞘腫」とは、神経線推を包む、文字どおり鞘の部分の細胞に発生する腫瘍です。90 近くが良性で、発育速度は緩慢であり、悪性変化もほとんど起こしません。
頚部では迷走神経(声帯と心臓・消化管などの内臓に分布する神経)に最も頻繁に発生し、それに続いて腕神経叢に多く発生します。腕神経叢は首から上腕に向かって分布する神経が束状に集まったものです。鎖骨上の皮膚がへこんだところを走っており、上肢の感覚と運動を司る大事な神経です。
まひの神経叢が傷つくと、肩や上肢の知覚麻痔および運動麻痺が起こります。頚部に発生する神経鞘腫の症状は、「しこり」が唯一の自覚症状であることも多く、深刻な症状は少ないのですが、腫痛を圧迫したときに、せき咳が出たり、神経にビリビリとした痛みを伴ったりすることがあります。
腕神経叢神経鞘腫の診断は、発生した部位とMRIなどを参考にすると比較的容易です。神経鞘腫の治療は、該当する神経を切断して摘出すると麻痔が生じるため、腫瘍を包む膜(被膜) を切開し、神経を切断することなく腫瘍の本体を摘出する被膜下摘出術が推奨されます。もちろんこの方法でも、腫瘍と神経の位置関係から麻痔が生じうるのですが、半年から1年程度の一時的麻痺や、不完全麻痔のみですむ場合も多いのです。
またこの方法では、肉眼的に取り切れても目には見えない取り残しがあり得ますが、腫瘍の性質上、長年かかって再発してくるに過ぎません。手術を行う場合は、これらの状況を考慮して行うこととなります。
神経を保存して摘出してあり、手術後まだ半年程度しか経過していないため、しびれはもう少し待つとよくなる可能性があります。また天候の加減や体調により、どんな手術による傷でも、「古傷が痛む」というような症状が出てしまいますから、今の痛みが取り残しの腫瘍のせいとは言い切れません。
「神経ブロック」の効果は、担当医の説明どおり一時的なもので、手術後に現在のような症状が出たのなら、ブロック自体でも神経麻痺が起こりうるので、あまりお勧めはできません。再発時の手術はどのような病気でも難しくなりますが、手術用顕微鏡を用いて丁寧に摘出すると、前述の手術による麻痺の発生も少なくてすみます。
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